遅れている震災の復興、そのための増税、ヨーロッパ発の財政・金融不安、問われる国家のあり方…不安定になる要素はどの時代にもあったのだと思いますが、これほど世の中が迷走してしまっているのでは、リーダーが『ビジョン』を語っていない、あるいはその重要さへの認識が足らない、それが原因なのではと感じています。ビジョンとリーダーシップは不可分な関係にあるようです。今回取り上げる本は、自らも企業の創業者であり、またコーネル大学で教鞭を取るケン・ブランチャード氏の著作である『ザ・ビジョン』(ダイヤモンド社刊)です。 ここではエッセンスのみをご紹介します。物語として書かれているのでたいへん読みやすい本です。ぜひ手に取って実際に読まれてみてください。
リンカーン大統領は水曜日の夜になるとお忍びで長老派教会でファインズ・ガーリー博士の説教を聴きにホワイトハウスを抜け出すことがしばしばあったそうです。あるときに説教の帰りに側近が今日の感想を聞いたところ「内容はずばらしい…」と大統領は答えたそうです。側近がさらに「つまりすばらしい説教だったということですね」と尋ねたところ、意外にも「そうではない」という答え。いぶかった側近が「先ほど、品格もありよく練られた説教だったとおっしゃいましたが…」「その通りだ。しかし博士はいちばん肝心なことを忘れておられた。つまりわれわれに『偉大なことをせよ』と呼びかけることをね。」リンカーンは人間の一生は偉大なことを目指すものだということを言いたかったようです。
使 命=ミッションはあいまいに使われることが多いため、著者はより明確な「目的」ということばを多用し、ミッションは限定的な意味に使っています。 @目的とは組織の存在意義である。A目的とは事業の内容を単に述べたものではなく『なぜ?』という問いに答えるものである。B目的とは顧客の視点に立って、その組織の使命を明らかにしたもの。C偉大な組織は社員の意欲をかき立てる「有意義な目的」を持っている。
三人の労働者が建設現場で働いていました。通行人が「あなたは何をしているのですか?」と尋ねたところ、最初の労働者は「レンガを積んでいるんでさあ」と答えました。次の労働者は「時給2ドルで働いているんでさあ」と答えました。3人目に聞いたところ「大聖堂を建てているんでさあ」と答えました。3人目の労働者が生き生きとした表情で働いていたことは言うまでもないことかもしれませんね。
目
的は「なぜ」を、価値観は「いかに」を説明するものと言えます。
@目的を達成する上でどう行動すべきかを示すゆるやかなガイドライン。A「自分は何を基準にしてどのように生きていくのか」に答えるもの。B内容を具体的に明言する必要がある。そうでなければどんな行動を取ればいいのかわからないから。C常に行動を伴うものでなければならない。そうでなければ単なる願望に終わってしまう。Dメンバーひとりひとりの価値観と組織の価値観とを一致させなくてはならない。
@最終結果のイメージであり、あいまいではなくはっきりしたイメージである。A無くしたいものではなく、獲得したいものに焦点を合わせる。B到達プロセスではなく最終結果そのものに焦点を合わせる。
最新のイメージトレーニングは、競技の過程をイメージするのではなく、表彰台に立っている自分の姿をイメージするのが主流になっているそうです。
自分とは何者で、何をめざし、何を基準にして進んでいくのかを理解することである。ビジョンは単なる未来志向ではなく現在進行形であり、いまこの瞬間からビジョンを生きることが求められる。ビジョンを現実に移しかえていくためのポイントは3つある。@ビジョンを想像するプロセス:ビジョンの内容と同じくらい重要。全社的にとことん現実を直視し将来の夢や希望を語り合うこと。Aビジョンを伝えるプロセス:リーダーたちが積極的に社員の間を回りビジョンと戦略について語り合うこと。Bビジョンを実践するプロセス:ビジョンを支える習慣や行動パターンといった具体的な構造も大切。具体的目標の設定、各自の説明責任・責任範囲の明瞭化、ミーティングなど。
2つのすばらしい戦略について簡潔に説明を行なっています。その1:ビジョンから目をそらさないこと。そのためには不測の事態に対して迂回路を取ること、あるいは目標を設定し直すことも厭わないこと。その2:身を投げ出す勇気を持つこと。身を投げ出すとは行動に移すことを意味しています。これについては引用されているゲーテの格言がその性格を最も的確に表現しているようです。「自分にはできる、あるいはできるようになりたいと思ったら、とにかく始めること。大胆さが才能を生み、力を生み、魔法を生む」