ある晩に夢の中に出てきた松下幸之助。その夢の中で、経営の神様より「原点に返り、正しいことを進めることですわ。」と諭された私は、「原点・本質とは何か?」を急がば回れの精神で勉強することにしました。
今回はその10回目です。ジェフリー・A・クレイムズ著『ドラッカーへの旅』(ソフトバンク・クリエイティブ(株)刊)を取り上げます。ドラッカー自身の著書は『プロフェッショナルの条件』、『チェンジ・リーダー』、『ネクスト・ソサエティ』など数冊を読みましたが、今回はジャーナリストであり自ら副社長としてマグロウヒルを経営した人物の目を通して描いたドラッカーの知の集大成です。2005年にこの世を去ったドラッカーですが、その見識はいまなお新鮮で時代を超えた経営哲学となっています。「企業の目的を定義するなら適切な定義はただひとつ、顧客を創造することだ。」不透明な時代だからこそ、報道に惑わされない核心をとらえる目を持ちたいものです。ではごいっしょに『ドラッカーへの旅』に出かけましょう。
行力溢れる経営を妨げるものとしてドラッカーは以下のものを挙げています。@過去とのしがらみを意図的に断ち切れない、Aお役所仕事や階層が多すぎる、B明快な理念がなく、知識やアイデアを共有する仕組みも欠けている、C組織のつくりが悪い、D戦略がはっきりしない、E見当違いの努力を求め、誤った行ないにほうびを与える。ドラッカーは組織づくりの重要性について次のように述べています。「組織の作り方が優れていたとしても結果が出るとは限らない。しかし、組織がガタガタだとけっして良い結果は生まれない。」
織のほころびを防ぐ方法としてドラッカーは以下のものを挙げています。@適材適所を心がけ強みを最大限に引き出す、A優先すべき仕事を書き出す(ただし多くても2つまで)、B外向きの発想をする、C制度、方針、業務の手順などを見直す(不必要に煩雑な仕事や生産性の足を引っ張る仕組みを取り除く)、D報酬のあり方を再検討する。 ドラッカーは早くから自社の事業は何かを見極めることが大切だが、一筋縄ではいかない課題であると述べています。ドラッカーは、「事業の目的を決める力を持つものは顧客だけである」との基本原則を唱え、「善意をただ言葉にしただけで終わらないようにするため、使命は地に足がついたものでなくてはならない。」と説いています。「気を散らすとどれほどすばらしい志を持ったマネージャーでも脇道にそれてしまいかねないので、ものごとの本質だけに注意を払うことが重要で、具体的な使命を掲げるのがマネージャーの仕事だ」とドラッカーは断じています。
ネージャーが直面しなければならない課題として以下の8つを挙げています。@結果や経営資源は会社の外にある(組織内にあるのはコストセンターだけ。成果は社内の人材ではなく顧客しだいで決まる)、A結果は問題の解決ではなく機会の探究から生まれる(問題の解決=元の状態に戻った)、B結果を出すためにはヒト、カネ、モノを事業機会に投入しなければいけない(ムダにしてしまっているマネージャーがあまりにも多い。効率よりも効果のほうが企業にとって重要である。「いかに正しく行なうか」より「いかに正しいことを行なうか」がカギになる)、C本当に意味ある成果を手にするのは市場リーダーである、Dリーディング企業の地位ははかない、Eものごとはすべて古びていく、Fヒト、カネ、モノの配分はたいてい誤っている(企業の成果の90%は努力全体の10%から生まれる)、G業績を最大化するためには一部の分野に努力を集中させることだ。
客視点に立たなければならいないが、マネージャーは組織に縛られて自分の裁量で使える時間がないことと、分厚いゆがんだレンズ越しに市場を眺めているという2つの実情を問題として挙げ、意識して以下の機会を持つことが重要であると説いています。@お客様と接する、Aお客様や納入業者を招き従業員との交流を図る、Bテクノロジーを活かして顧客満足度を上げる、Cライバル企業のサイトや実店舗を訪問するなど他社の動向を探るために週に2時間から4時間ほど費やす。
ネージャーに求められる資質としてドラッカーは次のことを挙げています。@各人にふさわしい仕事を割り当てるのが得意である、A採用にも解雇にも冷静に処理できる、B優先順位を決める能力が高く多くても2つの優先項目を決めてそれに力を注ぐ、D正しい答えを見つけるよりも正しい問いかけをすることの方が大切であると心得ている、E難局で真価を発揮する、F好ましい気質を培い人材の士気を高めるのが自分の責任であると肝に銘じている。
ラッカーに強い影響を受けたシドニー・フィンケルシュタインは著書「名経営者がなぜ失敗するのか?」の中でその主な原因を2つ挙げています。@経営者の考え方がアダになって現実を直視できなくなる、A幻想を抱きゆがんだ目で現実を見続けること。
ドラッカーに直接会い教えを請うたGEのジャック・ウェルチは「現実を直視しよう」をビジネスの第一原則としました。
過去との決別について、ドラッカーは「一見したところチャンスに見えても戦略目標の達成に役に立たないならそれは事業機会とは言えない」と定義し、@成果を上げられない人材や企業理念を守れない人材には去ってもらう、A利益を上げている事業といえども翳りが見えたら撤退を考える、B計画的な撤退ができるように部下を訓練する、ことの重要性を説いています。
識労働に関しては、強みに着目した人材配置を何より心がけなくてはいけないとドラッカーは強調しています。また、そのための「能力向上はひとえに本人にかかっている」と知識労働者の自己啓発の重要性を述べています。部下に対しても弱みを改めようとするより、強みを伸ばすことに注力すべきで、そして何よりも企業の持つ強みを活かすために、「人材配置も戦略的に行ない、最も大きな結果を出せそうなプロジェクトに精鋭を送り込む」ことが重要であると説いています。ドラッカーはアンドリュー・カーネギーが墓碑銘にした言葉「自身より優れた人材に仕事を任せる術を知っていた(人物がここに眠る)」を引用し、最強のマネージャーの姿を紹介しています。