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Vol.09-07 連載企画:あわてず、あせらず、あきらめず 2009年7月号

第6回 : 「私たちの経済は感情や思いグセに翻弄されている?」 その前編

ある晩に夢の中に出てきた松下幸之助。その夢の中で、経営の神様より「原点に返り、正しいことを進めることですわ。」と諭された私は、「原点・本質とは何か?」を急がば回れの精神で勉強することにしました。

今回はその6回目です。取り上げるのはマッテオ・モッテルリーニ著『経済は感情で動く』(紀伊国屋書店刊)です。
私たちはこれまで、消費者は大きな全体としてみると合理的な判断をし、需要曲線と供給曲線の交点で価格は決まり、ある商品から得られる満足度=限界効用はしだいに減っていく…それは自明のこととしてきました。しかし、それだけでは説明できないことが増えているように思えます。マーケティングの効果を上げるため、自らが賢い買い手になるため、非合理な経営判断をする思いグセや思考のパターンに気づくため、「感情経済」の側面がたいへん重要になっているようです。
ここで触れることができるのは、エッセンスのごく一部ですので、ぜひ本を手にとってお読みいただければと思います。

選択肢が多いほど混乱する

択肢が多いほど決定の合理性は高まると思いがちですが、いろいろな選択に「都合のよい理由」の数が多くなればなるほど1つを選ぶことが難しくなるという心理状態に陥りがちです。迷いと葛藤は「選択を遅らせる」か、場合によっては「選択しない」という結果をもたらします。とにかく人は買う意思を持っている場合には「選ぶ理由」がほしくなり、納得できる理由がないと態度保留になります。お客様の行動を後押しする「選ぶ理由」の提供がたいへん重要になります。


妨害効果

害効果は『すでに示されている選択肢AとBに、Aにきわめてよく似た選択肢Cが加わると一種の妨害効果が働いて、それとはまったく異なる選択肢Bが選ばれる比率が高まる』ことを言います。

ある文房具店の販促セールを例にとって考えてみましょう。5000円買うごとに、「500円分の金券」か「メタル調のボールペン」をもらうことができます。金券とボールペンを選ぶ人はほぼ同じでした。ところが、ここにメタル調のボールペンと外観が少し異なる「良く似たメタル調のボールペン」が新たに加わるとどうでしょうか。金券を選ぶ人が増えるのです。最初のボールペン選ぶ理由がよく似た商品の登場によって希薄になってしまい、結局対極にある金券が心理的に選びやすくなったのです。


誘引効果

因効果は『すでに示されている選択肢AとBのうち、一方と同種(たとえばここではBと同種)でありながら、それよりはるかに劣っている選択肢Cが加わると、追加された選択肢が餌になって(=誘引効果となって)、Bの魅力がぐっと上がりBが選ばれる確率が高くなる』ことを言います。妨害効果とは似ているようで、まったく異なる結果をもたらします。

ここでまたある文房具店の販促セールを例にとって考えてみましょう。ある文房具店の販促セール。5000円買うごとに、「500円分の金券」か「メタル調のボールペン」をもらうことができます。金券とボールペンを選ぶ人はほぼ同じでした。ところが、ここに「メタル調のボールペン」より明らかに質の劣る「プラスチック製ボールペン」という選択肢が加わるとどうでしょうか。「メタル調のボールペン」を選ぶ人が増えるのです。プラスチック製ボールペンはメタル調のボールペンの引き立て役となり、メタル調ボールペンを選ぶ理由を心理的に強化したことになります。


3つあると真ん中を選ぶ

つの選択肢が示されると、「端っこ嫌い」の現象が生まれます。すでに示されている選択肢AとBに、それとは飛び抜けた(プラスにせよマイナスにせよ)選択肢Cが加わると、中間の性格を持つものが選ばれる確率が増えます。

同じブランドのデジタルカメラのラインアップを例にとって考えてみましょう。Aモデルは4万円、Bモデルは7万円で、購入者数はほぼ同じでした。ところがここに12万円のモデルCが加わると、Bを選ぶ人の割合がぐっと増えて、Aを選ぶ人の割合が極端に減ったのです。


保有効果

保有効果とは『自分が所有するものに高い価値を感じ、手放したくないと感じる現象』を言います。

高価なワインを持っている仮称「私」を例に考えてみましょう。私は以前1本2000円でワインを1ダース買いました。そのワインが今では1本2万円にもなりました。あるときパーティーがあってそのうちの1本を空けることになりました。しかし、私はその分のワインを1本買って補充することもしなかったし、かといって残りの11本を時価で売ることもしませんでした。これは経済的計算からは矛盾した行為です。将来値下がりすると思うなら11本を時価で売るべきだし、将来値上がりすると思うなら1本を買い足しておくべきです。「自分がいったん所有したもの」を客観的に経済原則にあてはめて判断することは心理的にかなり難しいことのようです。

また、優秀なある車のディーラーは、新車の値引きへの関心よりも「それまで乗っていた車の下取り価格を上げる」ことを重視しがちな心理に目をつけて、提示金額は同じでも、新車の値引き額を減らし、下取り価格を上げることで、購入者に「うまい取引をした」と思わせる手法を使い成績を上げた例などが報告されています。
 

次回の後編では、飛ばせば飛ばすほど赤字になるとわかっていながら開発を止められなかった超音速旅客機コンコルドの失敗を招いた心理「コンコルドの誤謬(ごびゅう)」などをご紹介します。それでは暑さに負けずに8月にまたお会いしましょう。


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