ある晩に夢の中に出てきた松下幸之助。その夢の中で、経営の神様より「原点に返り、正しいことを進めることですわ。」と諭された私は、「原点・本質とは何か?」を急がば回れの精神で勉強することにしました。
今回はその5回目です。前回に続いてディズニー・インスティチュート著『お客様を感動させる最高の方法』(日本経済新聞出版社刊)を取り上げます。そこから「不況に負けないための本質」をさぐってみたいと思います。ただし、ここで触れているのは、エッセンスのごく一部ですので、ぜひ本を手にとってお読みいただければと思います。
前回、ディズニーのゲストロジーについてご紹介しましたが、この項目についてご質問をいただきましたので、今回はもう少し掘り下げて考えてみたいと思います。
ィズニーでは、ゲストを知るための顧客調査から得られる情報を「お客様の実態を知る」と「お客様の心理を知る」の2側面より分析しています。「お客様の実態を知る」はグループの物理的な特徴を表すもので、このデータにより、ディズニーに訪れる人がどのような人々なのか、どこから来るのか、到着するまでの苦労は、どのくらいのお金を使うか、といったことを知ります。ゲストがどのような人であるかがわかり、さらに重要なこととしてゲストでない人がどのような人なのかがわかります。
余談になりますが、かつてはデパートの顧客情報分析がたいへん効果を上げていました。しかし、スーパーやコンビニなど多様な業態が出現するなかで、その効果が薄れたと言います。その原因は「顧客の情報を詳細に分析することはできていたが、顧客にならなかった人の情報を集めることができていなかったからだ」と言われています。ゲストでない人、ゲストであることをやめてしまった人の情報が、たいへん重要になっています。
「お客様の心理を知る」を知る手がかりとして、ディズニー・インスティチュートでは@ニーズ(要求)、Aウォンツ(欲求)、Bステレオタイプ(先入観)、Cエモーション(感情)の4つの要素を取り上げ、それをゲストロジーコンパスの4方位と名づけています。
ーズは理解しやすいと思います。ディズニーで言えば、「休暇をテーマパークで過ごす」になります。ウォンツはもう少し複雑で、ゲストの心の奥にある目的を表わします。「幸せを感じたい」「家族の心に残る思い出を作りたい」などです。
ステレオタイプは企業や業界に対してゲストが抱いている典型的なイメージです。ディズニーで言えば、「子供のための場所」「長い列」「清潔」「お金がかかる」「楽しい」などで、ゲストの期待を知る貴重な手がかりになり、また顧客像がよりはっきりします。
当社でも「ニーズ」「ウォンツ」の違いに注目しています。例えば、当社の商品ラインアップにはさまざまな塗膜検査機器があります。お客様のニーズとしては、例えば塗膜の付着性の試験機なら「検査機器を購入して付着性の管理をきちっと行いたい」になるでしょう。しかし、ウォンツはどうでしょうか。「不良率を低減し、コストを下げたい」になるでしょう。お客様のウォンツを的確に把握しないと、適切な機器の選択あるいはさらに効果を上げるための周辺技術の提案はできないでしょう。ウォンツの把握はたいへん重要、いいえ不可欠なものであると思います。
ービステーマとサービス基準は以下のように定義されています。「サービスのテーマはお客様との約束であり、従業員にとっては働く目標である。いかにその約束を果たし、目的を遂行するか。答えはサービス基準を確立することである。」サービステーマは、@企業の目的を定義し、A従業員にメッセージを浸透させ、B企業のイメージを作り上げる、という3つ役割を果たします。サービステーマは、ディズニーのミッション、その達成手段、その対象を宣言しています。ディズニーのサービステーマは、伝統=ウォルト・ディズニーの理念である「幸せを創造する」に根ざしています。年代とともに表現が付け加えられ、1990年からは「わたしたちは、最上のエンターテイメントを提供することにより、すべての年代の人々のためにすべての場所で幸せを創造する」となっています。
ディズニーの以下の思想がサービステーマの持つ意義と効果を端的に示しています。「テーマは永遠に同じでなくてもよい。目標を達成し戦略を全うしたからといって、企業の目的を完遂したことにはならない。企業活動の目的は地平線上に浮かぶ星のようなもので、永遠に到達できない。…目的が決して完遂されないという事実がつねに企業に変化と進化を促すからだ。」企業の継続と不況に左右されない体質を作り上げるためには、「テーマ」と「基準」は不可欠なものです。
ィズニーのサービス基準は次の4つの要素になります。@安全、Aゲストへの配慮、Bショー、C効率。「ゲストへの配慮」に関してディズニー・インスティチュートの研修担当者は説明に次のように付け加えています。「ゲストがつねに正しいとは限らない。ただ、ゲストはつねにゲストである。」ITが発達して企業がさまざまな方向からチェックされる現在において、この姿勢はたいへん重要になっているように思えます。
ここで言うショーは狭い意味でのショーではなく、ゲストとの接点のすべてを含んでいます。ごみ箱から飲み物まで、用語からキャストの服装まですべてにおいて物語を反映したものになっていて、「ゲストに継ぎ目のないショーを提供する」ことを目指しています。
サービス基準は単に定義するだけでなく、優先順位をつけることが重要です。優先順位がないと、4つの基準が対立したときに問題が起きるからです。ディズニーでは、@安全、Aゲストへの配慮、Bショー、C効率、を優先順位としています。また例えば、ディズニー・インスティチュートの理念を導入した米国のある医療サービスネットワークでは、サービス基準を次のように定義しています。プライバシーの尊重、敬意、連携、品位、共感。
では、来月は「感情経済」をテーマにまたお会いしたいと思います。