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Vol.09-03 連載企画:あわてず、あせらず、あきらめず 2009年3月号

第2回 : 「継続する成功」と「いっときの成功」とを分けている法則 その前編

ある晩に夢の中に出てきた松下幸之助。その夢の中で、経営の神様より「原点に返り、正しいことを進めることですわ。」と諭された私は、「原点・本質とは何か?」を急がば回れの精神で勉強することにしました。今回はその第2回目です。よろしかったら、ごいっしょにいかがですか?

知りたいのは「成功の持続」と「いっときの成功」とを分けるもの

回取り上げた本はジェームズ・C・コリンズ著『ビジョナリカンパニーA 飛躍の法則』(日経BP社)、原題は『GOOD TO GREAT』です。著者は大ベストセラーとなった『ビジョナリーカンパニー』の中で卓越した企業に共通の「基本理念」を明らかにしましたが、それはまた「すばらしい本ではあるが、取り上げられている企業は創業時から卓越した企業で、どうしたらGOODの企業がGREATに飛躍できるのか、どうしたらそれを継続できるのかという重要なポイントに答えてはいない」という批判も受けました。その批判に応えるために始められたのがこの調査プロジェクトです。

調

査チームは以下のように結論づけています。「ほとんどどの組織も、この調査から導き出された枠組みを運用し努力を続ければ、実績を大幅に向上させることができるし、おそらくは偉大な組織にもなり得る。」確かにそこには規模の大小、分野や組織形態を問わず機能する本質が見えます。景気の波に翻弄されない羅針盤を語る好著ですので、2回に分けて紐解いて行きたいと思います。

偶然の確率は1700万分の1以下

去40年のフォーチュン誌に登場した米国企業1435社から、良好な業績(そこそこに良い企業=GOOD)の期間を15年以上経た後に、飛躍を遂げ卓越した企業(GREAT)に進化ししかもその状態を15年以上にわたって継続している企業を選んでいます。「15年以上の卓越」を要件にしたのは、ひとつの商品やひとりの経営者に依存した限定的な飛躍を排除したいためです。この厳しい基準に残ったのは11社。さらに、1435社の中からその11社と同じ業種・規模・環境にありながら、卓越したレベルに至らなかったあるいは至ったものの維持できなかった比較対象企業群17社を5年間にわたり詳細に調査(多数の経営者への直接取材を含む)しています。その結果、11社がいずれもある特徴を持っているのに対して、比較17社にはすべてその特徴が欠けていたことが判明しました。この調査結果が偶然である確率を応用数学の専門家は「1700万分の1以下」であると言います。それはまさに両者を決定的に分けているものであると断定できそうです。一方でその特徴は著者をもってしても意外なものであり、これまでの「成功に導く経営者像」とは大きく異なるものでもあります。

11社が突破点を迎えたときの共通の特徴

OODからGREATへの突破点で11社には以下の共通する特徴が見られました。 ●著名で派手な経営者が社外から乗り込んでくることは偉大な企業への飛躍という点ではマイナスだった。●長期経営戦略の策定に長い時間をかけたという事実はなかった。●「やるべきこと」よりも「してはならないこと」「やめるべきもの」を重視していた。●技術革新とそれによる変化はすでに起きている飛躍を促進する効果は持つものの、飛躍をもたらす効果は持っていなかった。●実績面では革命的な結果を残したが革命的な方法を用いたわけではなかった。●必ずしも花形の業種で事業を展開していたわけではなかった。

これまでのイメージとは異なるトップ像

般的に思われているような「派手で強烈な個性を持ちマスコミにもよく取り上げられる人物像」とは遠くかけ離れていて、驚いたことにみな同じ性格の持ち主でした。取材で得た人物像は全員が控え目で、内気で、恥ずかしがり屋ですらあったそうです。
調査の過程で見出したリーダーの能力を以下の5つの水準に分類しています。
第1水準:才能・知識・スキルなどにより生産的な仕事をする。第2水準:目標達成のため自己の能力発揮と周囲と協力する。第3水準:人と資源を組織化し目標を効率的・効果的に追求する。第4水準:明確で説得力のあるビジョンにより組織まとめ行動させ、より高い水準の業績を達成するべく組織を刺激する。

して、11社のトップに共通して見られたリーダーの資質を最高位の第5水準とし、以下のように特徴づけています。『ある二面性を持つ。自尊心は自己ではなく偉大な企業を作ることに向けられていて、大きな野心を持つがあくまで組織としてであり、自己には向けられていない。次の世代でさらに大きな成功が得られるようにしようとする志向を持つ。個人としては謙虚であるが、プロとしては不屈の精神を持ち、控えめであるが大胆である。ある基準を課し、その達成に対しては熱狂的な意欲を示し、現状に満足しない。しかし、飛躍できた理由を聞くと多くのトップが「幸運」と答える。』 著者らは、企業の浮沈はトップ次第というステレオタイプになることを慎重に避けようとしましたが、調査結果はトップの性格の影響がきわめて大きいことを示していたと言います。対照的に比較17社のいずれもが第5水準のトップは不在でした。

人ではなくシステムを管理する

調

査ではベンチャー企業が偉大な企業になりにくい理由を「かなりの部分、成長と成功への対応を間違えるからだ」として次のように分析しています。成長し事業が複雑になると、新しい従業員・商品・顧客が増え、それが過度になり混乱の窮みとなる。経理体制やシステムが脆弱で採用基準がないため摩擦が生まれる。たいていは管理者の誰かがこう言いだす。「大人になる時期が来た。経営管理のプロが必要になっている。」一流企業で経験を積んだ管理者を雇う。フラットだった雰囲気は消え、上下関係が明確になり、普通の企業に近づく。経営管理者は秩序をもたらすが同時に企業家精神を殺してしまう。創業当時の管理者から「この会社も面白くなくなった」と不満が出る。特に創造性の豊かな人たちが官僚的な制度を嫌って辞めていく。これといって強みのない会社になってしまう・・・。対照的に11社にはっきり制約のある一貫したシステムがあり、その枠組みの中で社員に自由と権限を与えていて、それは規律の中で航空機を操縦するパイロットにも似ています。経営管理者は人間ではなくシステムを管理していると言えます。

回ではさらに比較17社を含めて検証することで見えてきた11社に共通する特徴をさらに掘り下げてみたいと思います。それでは、後編でまたお会いしましょう。

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