月のある晩に私は夢を見ました。何かの講習会…。かなりレトロな会場…。独特の張り詰めた空気…。黒板に文字を書いてる講師…。第一条:「不況もまたよし」と考える、第二条:原点に返って、志を堅持する、第三条:再点検して、自らの力を正しくつかむ、第四条:不撤退の覚悟で取り組む、第五条:旧来の習慣、慣行、常識を打ち破る、第六条:時には一服して待つ、第七条:人材育成に力を注ぐ、第八条:「責任は我にあり」の自覚を、第九条:打てば響く組織づくりを進める、第十条:日頃からなすべきをなしておく。私は会場の中央で起立したまま講師の次の言葉を待っています。振り向いた講師はなんと、松下幸之助でした。「あんはんのように不況になってからあわてとるようやあかん。日頃が大事なんですわ。」厳しい言葉が私の体を貫きました。かろうじて私は言葉を返します。「わかってます。日頃のつけです。後悔先に立たずです。それでも教えていただきたいのです。どうすればよいのでしょうか?」これに対する経営の神様の言葉はきっぱりとしたものでした。「原点に返り、正しいことを進めることですわ。」
夢はそこで覚めました。どうやら、原因は枕元にある『不況克服の心得十カ条』のようでした。私はしばらく「原点に返るためにはどうしたらいいのだろうか?」と考えていました。そして疑問がひとつ浮かんだまま私を朝まで放してくれませんでした。「会社って何なんだろう?」急がば回れです。原点に返って勉強を始めることにしました。よろしかったら、ごいっしょにいかがですか?
最初に選んだ本は、『経営者に贈る5つの質問』です。著者はP.F.ドラッカー(ダイヤモンド社刊)。その内容を私なりに噛み砕きながら、原点を考えてみたいと思います。ドラッカーの5つの質問とは、以下の根源的な問いです。1.われわれのミッションは何か? 2.われわれの顧客は誰か? 3.顧客にとっての価値は何か? 4.われわれにとっての成果は何か? 5.われわれの計画は何か?
ラッカーの簡潔で本質をとらえた定義の才にはいつも驚かされます。私たちが掲げるべきミッションも、Tシャツに書いて似合うような簡潔な言葉でなくてはならないそうです。その言葉は、何を、なぜ行なうかを表す、いわば働くことの意味を示すものです。それはまた、「何を行なうべきか」とともに「何を行なうべきでないか」をも教えてくれます。
動の対象としての顧客は「誰を満足させたとき成果をあげたと言えるか」という問いに答えることで確認ができます。これを仮に顧客Aとします。ただし、もう一つの顧客が存在します。それは『パートナーとしての顧客』で、社員、協力者、委託先など活動を支える人たちです。こちらを仮に顧客Bとします。ドラッカーは、両方の顧客が満足しなければ成果はあげることはできないと言ってますが、ここでひとつの忠告を加えています。「両者を並置したくなるが、組織が成果をあげるためには、その焦点はあくまで前者の顧客Aである」と。
つの視点があげられています。@顧客Aにとっての価値、A顧客Bにとっての価値、B顧客に学ぶべきものは何か、Cどのようにして顧客に学ぶか、です。顧客の価値が5つの質問の中で最重要であるが、答えは想像するものではなく、必ず直接答えを得なくてはいけないとドラッカーは忠告しています。多くの企業で、それなりに考えられてはいるが、少なからず自分たちが勝手に考えたものを前提にしているとも指摘しています。「もちろん顧客は彼らのニーズを満たし、彼らの問題を解決してくれる組織に価値を見出す。しかしそれ以上に彼らは、自分たちに耳を傾け惰性を拒否する勇気をもつ組織に価値を見出す」という見解にはドラッカーの真骨頂を感じますね。
果については定性的評価と定量的評価の2つがあると言っています。2つの評価は互いに密接な関係にあり、前者は変化の広がりと深さを教え、生きた情報をもたらすものです。後者は数値化できるもので、経営資源は成果に向けられたか、あるいは進歩が見られたかを具体的に見る上で重要です。定性的な変化は主観的で計測が困難であっても、体系的に評価するべきであると説いています。リーダーは、経営資源の浪費を防ぎ、意味ある成果を確実なものにするために、何を行なうかを決定する責任を持つ、とドラッカーは断じています。
こでドラッカーは2つの視点を掲げています。@ミッションは変えるべきか、Aわれわれの目標は何か、です。計画には、ミッション、ビジョン、ゴール、目標、行動、予算、評価が織り込まれていなければなりませんが、まずミッションを再確認し目標を設定することから始まります。その目標は具体的で評価可能なものである必要があります。ゴールは長期的な到着地で、何に経営資源を集中させるかを示し、企業の本気度を表明します。計画にはゴールが達成され、ミッションが実現したときのビジョンを示すことができます。計画はアクションプランや予算として具体化されますが、計画を実行すべき人はアクションプラン策定に参画していなければならないとドラッカーは説いています。
ラッカーは、@組織と顧客さらには環境の変化を検証し、A5つの質問一つ一つに答え、Bさまざまな機会を設けてその考えを話し合う、ことを勧めています。5つの質問は一見シンプルですが、示唆に富み、私たちの思考を本質的なものへと強く導きます。
さて、次回の勉強に選んだ本は『ビジョナリーカンパニーA 飛躍の法則』(日経BP社刊)です。そこそこの会社と卓越した会社を分けているもの、成功が一時的であった会社と持続している会社を分けているものは何か?・・・5年に及ぶ膨大な資料の分析と考察の結果、意外にも両者を明確に分ける法則の存在が明らかに・・・それではまたお会いしましょう。