- 一般のデジタル式電磁式膜厚計や渦電流式膜厚計は金属素地の材質が重要ですが、超音波膜厚計では塗膜自体の材質が重要になります。
塗膜の材質や状態により密度が異なるため、音が伝わる速度が変わってきます。超音波膜厚計はエコーが反射してくる時間の差から膜厚を算出しますので、音速が変わると膜厚値の計算に影響します。
材質による音速値の違いとそれが膜厚値の計算に与える影響の例をご紹介します。
超音波膜厚計の原理

超音波によるパルスエコー技術の応用により非金属基板(木、コンクリート、プラスチック、複合物)や金属などの上の膜厚を非破壊で測定することができます。
超音発信素子から発せられた超音波パルスは、塗膜上に塗られたジェルを通してコーティング層内を進み、密度で異なる層の境界で反射します。 コーティング膜と素地との界面あるいは塗膜の層間から反射してくる超音波の到達時間を分析することで膜厚が測定されます。 反射して戻ってくるまでの時間は、境界までの厚み(プローブからの距離)の違いにより2つないし複数に分かれます。条件によっては多層膜の各層の厚みも測定することができます。
電磁式膜厚計や渦電流式膜厚計は、素地の特性に合わせるため素地調整(ゼロ点校正)を行なう必要がありますが、膜厚用の超音波膜厚計は塗膜により音速が異なるため、塗膜ごとの音速の校正が必要になります。
PPで校正した結果で他の樹脂膜を測定した場合
音速の校正方法 | 樹脂膜の種類 | デジマイクロによる実測値 | 超音波膜厚計の表示値 | 誤差 |
---|---|---|---|---|
厚み61μmのPP樹脂膜を超音波膜厚計で測定した際の値を61μmに校正 | PP | 61μm | 62.1μm | 1.8% |
塩ビ | 490μm | 519.8μm | 6.1% | |
PET | 490μm | 486.2μm | 0.8% | |
アクリル | 716μm | 725.2μm | 1.3% | |
ウレタン | 48μm | 53.6μm | 11.7% |
アクリルで校正した結果で他の樹脂膜を測定した場合
音速の校正方法 | 樹脂膜の種類 | デジマイクロによる実測値 | 超音波膜厚計の表示値 | 誤差 |
---|---|---|---|---|
厚み716μmのアクリル樹脂膜をを超音波膜厚計で測定した際の値を716μmに校正 | PP | 61μm | 64.6μm | 5.9% |
塩ビ | 490μm | 517.4μm | 5.6% | |
PET | 490μm | 486.2μm | 0.8% | |
アクリル | 716μm | 719.6μm | 0.5% | |
ウレタン | 48μm | 50.6μm | 5.4% |
木材の上のアクリル系塗膜を測定
音速の校正方法 | 樹脂膜の種類 | デジマイクロによる実測値 | 超音波膜厚計の表示値 | 誤差 |
---|---|---|---|---|
2のまま | アクリル木工塗料 | 426μm | 442.4μm | 3.8% |
※超音波膜厚計の表示値は5回計測の平均値です。

- ◆この測定試験は単体のアクリル系塗膜でいったん音速値を調整し、それを木材に塗装した場合の測定精度を確認したものですが本例でも確認できましたように適切な測定結果が得られました。
このように超音波膜厚計では、まず塗膜の音速値を正しく調整することが必要になります。
