どうして頻繁に校正(セルフキャリブレーション)をしなければいけないのでしょうか?

用語について…調整? 校正? 較正?

素地調整とか2点調整という用語がよく見受けられますが、JISでは「校正」という用語が用いられています。
メーカーによっては、測定機をトレーサブルな精度調整・確認を行なうCalibration(校正)とユーザーご自身がフォイル(シム)で行なうCalibrationを区別するため、後者をSelf-calibrationと呼ぶこともあります。

測定時に自分で校正作業をしないと値は当てにならないの?

JIS K5600-1-7には次のように記載されています。『使用前に製造業者の指示に基づいて、各装置は適切な校正用標準(フォイルなど)を用いて校正しなければならない』
膜厚計はなぜ使用者が自らフォイルを用いて事前に校正してから使用しなければならないのでしょうか? それは比較測定法の特性から生じるものですが、極端な言い方をすれば、校正しないで使用した場合「その値は当てにはならないかもしれない」からです。

どのように校正をするの?

  1. ① ゼロ点調整は実際の素地もしくは実際の素地と同じ特性を持つ金属板で行ってください。
  2. ② 調整点は、実際の膜厚範囲より厚めで、なおかつ最も最大値に近いフォイルで実施してください。
    また、厚膜の場合には2点調整を行なうとバラツキが小さくなります。詳細は膜厚計の取扱説明書等をご参照ください。

いつ校正作業をするの?

「試験場所に装置(=膜厚計)を作動させるたびに、また、使用中頻繁に(少なくても1時間に1回)適切に作動していることを確認するため装置の校正を行なうものとする」とJISには記載されています。

では、どうして「頻繁に適切に作動していることを確認するために校正をする」必要があるのでしょうか? 最大の理由は「プローブの先端摩耗」にあります。プローブの先端は素地などに繰り返し押し当てられますので、先端が摩耗して特性に変化が生じます。その特性の変化を校正により吸収する必要があり、また摩耗が進むとついには測定の再現性が得られなくなり修理や交換が必要になります。ある限界を超えると膜厚値に値がデジタル表示されたとしても、それはもはや規定の精度を逸脱したものとなっている可能性が大きいのです。そしていつ限界を迎えるかを予測するのは残念ながら難しいようです。

校正作業で何を調整しているの?

校正証明書付のフォイルを使用していれば1年間は精度が保たれるの?

残念ながら1年間の精度を保証するものではありません。JISには「校正用フォイルは一般に適切なプラスチック材料で作られている。これらはキズが付きやすくそのためしばしば交換しなければならない」と記載されています。「最低でも年に1回は交換する必要があるもの」「キズや折り目が付いたものは1年を待たずに交換するべき」とお考えいただくのが適切であると思います。

測定現場における現実の精度を考えた時に重要なことは…

良い膜厚計の要件は?

「どの膜厚計が良いか?」というご質問をしばしばお受けいたします。もちろん一概には言えないと思いますが、塗装の自動化が進んだ今日、平らな測定しやすい個所ばかりを測定していても膜厚管理とは言えなくなっています。必要に応じて狭い個所も計れる小さなプローブがラインアップされていることは良い膜厚計の要件になるだろうと思います。狭い個所は標準プローブで測定しても良い精度は得られません。

もう1つ、JISの記載にある「少なくても1時間に1回)適切に作動していることを確認する」が現在の膜厚計が持つ課題を表しているようです。言い換えればそれほどの短時間に精度が狂う可能性を持っているということになります。予期せぬ精度の低下を招く最大の原因は、プローブ先端の摩耗にあります。ある造船所で使用されている膜厚計を調査したところ、1か月に10万回を超える測定がされていました。それだけプローブ先端は硬い金属素地や塗膜に押し当てられ、場合によっては叩きつけられるように素地と衝突し、先端は摩耗します。徐々に特性が変わり、精度が劣化し、ついには再現性が得られなくなります。そして、その予見は残念ながら難しいのが実情です。そのため、しばしば精度が適切に保たれているかを確認する必要があるのです。良い膜厚計の要件は…小さなプローブも使用できることに加えて、先端の耐摩耗性が優れていることが挙げられるでしょう。最近では複数のメーカーが先端にダイヤモンドに次ぐモース硬度を持つ、ルビーやサファイヤを採用しています。プローブ先端が摩耗に強いことは、膜厚管理の現場にとって、現実的で重要な要件であると思われます。

測定値が表示された…でもその値は正しいのでしょうか?

狭い個所に何とかプローブ先端を押し当ててみたら、ピッと反応して測定値が表示された…「計れた」と考えがちですが、果たしてそうでしょうか? 膜厚計の特性をよくご理解いただきご活用いただければと思います。